わさびの基礎知識
古くから私たち日本人の食卓で親しまれてきた「本わさび」。“植物”として専門的な見方をすると、アブラナ科Eutrema属に分類され、学名を「Wasabia japonica Matsumura」と言います。学名に日本を意味する「japonica」がつけられているように、本わさびは日本原産の植物と言われています。研究の進化によって植物の分類や原産地の推定が変わることがありますが、最新の葉緑体ゲノム解析でも、「Wasabia japonica」は日本固有種であることを裏付ける結果が出ています。 本わさびはなかなか奥が深く、まだあまり知られていない知識がたくさん詰まっていそうですね。このコラムでは、そんな「本わさびの知られざる秘密」をお届けしていきます。
わさびの基礎知識
第四回 わさびの系譜
わさびが栽培されるようになったのは、江戸時代初期と言われています。慶長年間(1596-1615)には、安倍川上流有東木(うとうぎ:現在の静岡市)は望月六郎右衛門を長として開かれ、わさび栽培歴史の始まりと言い伝えられています。江戸時代後期には、わさびを付けた握り寿司が考案され、江戸の町でブームが巻き起こったことで庶民の間に広まっていきました。それに伴い、全国で自生わさびを利用した在来品種が育成され、昭和初期になると、本格的な栽培品種も誕生します。こうして、多くの人の手により改良が重ねられ、今のわさびが生まれました。
今回は、そのルーツを紐解いてみましょう。
系譜から探るわさびのルーツ
わさびは、「青茎系」と「赤茎系」の2つの系統に分類されます。「青茎系」は、茎が緑色で直立する傾向があります。根茎も緑色で質もよく、生育が旺盛です。代表品種は、「だるま系統」です。「赤茎系」は、茎は赤みを帯び、茎は太く平らです。生育が遅く、辛味が強い傾向にあります。代表品種は、「真妻(まづま)」です。
三大品種
〇だるま系統(青茎系)
だるま系統は上品な辛味とまろやかさが特徴です。茎や根茎が緑色で、栽培期間は1年~1年半と、赤茎系よりも成長が早く栽培しやすい系統です。長い歴史の中で選抜育種したものを含めると多くの品種があります。種子から育てた実生苗を使って栽培されます。
〇真妻種(赤茎系)
真妻種は強い辛味の中に淡い甘みがあり、香りや粘りも優れています。茎や根茎に赤紫色が混じり、栽培期間は1年半~2年以上。親から分けた子苗を育てる栄養繁殖や、品質保持のためのバイオ技術によるメリクロン苗から栽培されます。
〇島根3号(赤茎系)
島根在来種とだるま系統(もしくは半原)を交配した品種です。病気や害虫に強かったため、島根県ではわさび栽培の多くに島根3号がもちいられました。島根の渓流式栽培に適していたようで
参考 https://www1.gifu-u.ac.jp/~kyamane/wasabiRes_DNA.html
広がりを見せるわさびの品種
〇みさわ・みつき
主に畑わさび栽培向け品種として、生育旺盛なだるま系統から育成した品種です。
〇だるま系統と真妻の交配育種
だるま系統の生育の早さや美しい緑色の特徴と、真妻の強い香りの特徴を併せ持った品種を開発しようと、多くのわさび農家が取り組んでいます。
〇だるま系統の育種
栽培圃場の中から生育旺盛なものや病気に強いもの、形の良いものなどが、わさび農家で選抜育成されています。
真妻系統の育種
真妻栽培圃場の中から、生育が旺盛なものや病気に強いもの、赤みが少ないものなどが選抜育成されています。
農水省のデータベースで検索すると、22件のわさびの登録情報があります。 そのうち、現在も育成者権があるものは4品種、出願中のものは2品種です。わさびは、品種・系統ごとに適する栽培環境(水温や水質、日照条件や季節による気象条件)が微妙に異なるため、ある産地では優良品種であっても、他産地へもっていくとうまく育たない、ということがよくあるようです。そのため品種登録されている数は少ないですが、各地のわさび農家が独自に選抜した品種は農家の数以上にあるといわれています。