わさびの基礎知識
古くから私たち日本人の食卓で親しまれてきた「本わさび」。“植物”として専門的な見方をすると、アブラナ科Eutrema属に分類され、学名を「Wasabia japonica Matsumura」と言います。学名に日本を意味する「japonica」がつけられているように、本わさびは日本原産の植物と言われています。研究の進化によって植物の分類や原産地の推定が変わることがありますが、最新の葉緑体ゲノム解析でも、「Wasabia japonica」は日本固有種であることを裏付ける結果が出ています。 本わさびはなかなか奥が深く、まだあまり知られていない知識がたくさん詰まっていそうですね。このコラムでは、そんな「本わさびの知られざる秘密」をお届けしていきます。
わさびの基礎知識
第一回 “本わさび”と“西洋わさび”
“本わさび”と“西洋わさび”の違い、あれこれ。
同じ「わさび」でもよく聞くのが、“本わさび”と “西洋わさび”。名称から、日本産とヨーロッパ産の違いかな?というイメージは持てますが、具体的な違いはなんでしょうか?紐解いてみましょう。
◇本わさび
科名:アブラナ科
属名:Eutrema属(シノニムとしてWasabia属とも表現される)
冷涼な環境と豊富な水量を必要とするため、栽培適地は限られていますが、山の奥深くの清らかな水流のある場所では、自生していることもあります。また、水の流れを使わない「陸(おか)わさび」という栽培方法もあり、全国各地で栽培がされています。海外でも、中国や台湾、インドネシア、オーストラリア、カナダ、アメリカ、イギリス、フランスなどで栽培に取り組まれています。
根茎をすりおろして、鼻にツーンと抜ける辛さとさわやかな香りを楽しむ香辛料として、また、葉柄(茎)部分を使用した“きざみわさび”や“わさび漬け”通の間では人気です。
◇西洋わさび
科名:アブラナ科
属名:Armoracia属
原産地は諸説あり、ヨーロッパ南東部、フィンランド、ロシアのカスピ海北部沿などと言われています。食用としては、ドイツ、北ヨーロッパ、ロシアの他、アメリカでも多く使われ、肉料理や魚介料理の付け合わせにします。若葉をサラダにして食べることもありますが、根をすりおろしてソースのベースとしての使用や、みじん切りにして料理に添えるのが一般的です。
「レフォール」という料理用語で呼ばれていますが、古フランス語の「Raiz(根)」と「Fort(激しい)」が合わさってできたというのが興味深いですね。昔は、マスタードより安価だったため、“質素なマスタード”という意味の呼び名もあったと言われています。
明治以降に日本の帰化植物になりましたが、北海道の一部の地域を除いてはまだまだ馴染みが薄く、すりおろして食べる方法以外は限られたものでした。その後、加工わさびが広まるようになると、その原料として主役を担うようになりました。今ではどちらの“わさび”も、私たちの食卓に欠かせない香辛料となっています。