わさびの基礎知識
古くから私たち日本人の食卓で親しまれてきた「本わさび」。“植物”として専門的な見方をすると、アブラナ科Eutrema属に分類され、学名を「Wasabia japonica Matsumura」と言います。学名に日本を意味する「japonica」がつけられているように、本わさびは日本原産の植物と言われています。研究の進化によって植物の分類や原産地の推定が変わることがありますが、最新の葉緑体ゲノム解析でも、「Wasabia japonica」は日本固有種であることを裏付ける結果が出ています。 本わさびはなかなか奥が深く、まだあまり知られていない知識がたくさん詰まっていそうですね。このコラムでは、そんな「本わさびの知られざる秘密」をお届けしていきます。
わさびの基礎知識
第七回 わさびの辛さの秘密
本わさびは、日本特有の香辛野菜です。この独特な香りと辛味は、古くから私たちの生活の中で生かされ、日本の食文化になくてはならない存在となりました。そもそも、本わさびは根茎をかじるだけでは、辛味よりわずかな苦みを感じるだけです。しかし、咀嚼していくうちにツーンと鼻に抜ける辛味が出てきます。この辛味は、一体何なのでしょうか。今回は、本わさびの辛味について紹介します。
本わさびの辛味成分とは?
本わさびは、野菜といっても香辛料として楽しむもので、辛味成分や香味成分が重要です。中でも、辛味成分としてずば抜けたチカラを発揮しているのが「アリル芥子油」です。これは、根茎や根部に多く含まれています。同じアブラナ科のからし種子にも、このアリル芥子油が含まれ、これは他の植物中でも群を抜いて多いです。
本わさびと同じ「シニグリン」を持つ野菜たち
辛味の素「シニグリン」は、アブラナ科の野菜に多く見られます。(下の例でいうと、芽キャベツには辛味がある印象はないですよね)
・からし菜
・カイワレ
・ブロッコリー
・芽キャベツ
・ホースラディッシュ
・クレソン
独特のほろ苦さに加え、鼻に抜ける刺激があり、食欲を増進させる効果を持っています。
すりおろすと辛くなるメカニズム
本わさびの辛味は、細胞の中にある辛味の素「シニグリン」、酵素「ミロシナーゼ」、が、すりおろすことによって酵素反応を起こし、「アリル芥子油」という辛味成分になります。よって、細かくすりおろすほど、酵素反応がたくさん起こり、辛味が増します。目の細かい鮫皮おろし器が昔から使われていた理由はここにあるのですね。また、この「アリル芥子油」は揮発性の鮮烈な辛味を持っています。鼻にツーンとくるのはこのためですね。